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Book Review 99 - 00

 

 

→以前、ミニコミ誌に載せた原稿です。


 箱庭の幸せ〜「ラブ・ストーリーを読む老人」

       ルイス・セプルベダ / 旦 敬介 訳 新潮社版

▼箱庭というものを知っているだろうか。 箱庭は箱に仕切られた空間に、樹木や水、それに家屋や橋などを配し、楽しむミニチュアである。 その空間は創造主たる製作者の想いや憧れが表現されているという。―つまり、その人にとっての理想郷である。 そしてまた、人類は理想郷を求めて、「開発」という名の箱庭を地の果てるまで創り続けている。 しかしこの作品の著者の視線はその「箱庭」の外にむけられている、いや、その内にもむけられているように感じる。  

▼この作品の舞台となるのはアマゾン川流域の開拓地。そこは開拓者たちばかりではなく、観光客や、文化人類学者、それに一攫千金を狙って山師のような人々…様々な外国人が行き交う場所であるとともに、「箱庭」の内と外との境界線に位置する物質文明の恩恵を受けることのない果ての地である。そんな土地でも、「開発」はその境界線をさらに奥地へと押しやり、先住民や野生動物はアマゾンの奥へと姿を消してしまった。  しかしある事件をきっかけに、その境界線は押し戻され、揺り動かされることになる。そこで繰り広げられるのは「環境を破壊する」意志などほとんどなく、「開発」の恩恵を受けることなく、ただ、生存のために剥き出しの自然にむかってたたかう開拓者たちと、りりしさの極致の存在である野生動物との互いの生死を賭けた、たたかいであった。  その事件に巻き込まれた「箱庭」の「外」を知り尽くした老人は選択に直面する、つまり彼の帰属を。そしてついには彼を「人間の野蛮な行為」へと導くのである。その事件の原因が「内」しか知らぬ外国人であるにもかかわらず。  

▼この作品で、著者は老人やほかの開拓者たちを優しい眼差しを向けている。いわゆる、自然保護的な、「箱庭の外」的な、帰属に基づいた視線で物語をみつめてはいない。むしろ、帰属というもの、境界線を取り除いた地平に立っているように思う。  境界線はなくなるのだろうか。 「開発」は開発となりうるのだろうか。この作品にはその問いに対する一つの答えにたどり着くための道が用意されているように思う。

ルイス・セプルベダ:1949年生まれ、学生時代にチリのアジェンデ社会主義政権を支持する運動に加わったため、軍事政権成立後、亡命の旅に出て、ペルーや、エクアドル、コロンビアなどで暮らし、ドイツでジャーナリスト、劇作家として生活をする。自然保護運動などにもかかわるチリ人の作家である。


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